オオシマザクラは、日本固有の野生のサクラ

今日は、知っているようで意外と知らない、「オオシマザクラ」と人の暮らしとの深いつながりについて深掘りしたいと思います。

オオシマザクラは、日本固有の野生のサクラ

みなさん、こんにちは。
私の名前は「オオシマザクラ」といいます。

故郷は、伊豆大島を中心とした伊豆諸島です。故郷には、たくさんの「オオシマザクラ」が自生しています。そのため、名前には「オオシマ」が含まれています。お花見で有名なソメイヨシノのお父さん(花粉親)にあたる、日本固有の野生のサクラです。

私は、古くから伊豆の島々や沿岸部で、日本人の「衣・食・住」にも深く関わってきました。みなさんが春に口にするあの「桜餅」の香りの正体も、私だったりします。

発見されたのは、いつ頃?

特定の発見年や発見者は明確ではありません……
聞くところによると、古くから日本人に知られていたサクラで、平安時代(8世紀〜12世紀頃)の文献にもその名が登場したんだとか。

「えっ!そんな昔から?」って思ったでしょう?
私、とっても丈夫なんですよ。

伊豆大島などは、何度も激しい噴火に見舞われてきた火山の島で、多くの植物が姿を消しました。しかし、私は生き抜いてきた!この圧倒的な生命力!
その強さを体現するかのように、伊豆大島には「桜株」と呼ばれる、推定樹齢800年を超える私の大先輩がいます。

大昔から、サクラは人々の暮らしに関わってきました。特に真っ白で大きな花を咲かせる私は、「田の神様」が降りてくる目印と信じられてきました。厳しい自然の中で暮らす人々にとって、私はただの植物ではなく、「神様との繋がり」を感じさせる特別な存在でもありました。

薪や炭、台所道具

月日を重ねると、厳しい環境でもいち早く芽吹き、たくましく育つ私は、島の人々にとって大切な「薪(まき)」や「炭」となりました。火力が非常に強く、寒い冬を越すための貴重なエネルギー源として「住」の土台になったのです。

さらに、材は「野生種(原種)」ならではの力強さがあり、硬くて丈夫。台所の相棒(腐りにくく水に強いため、昔から「まな板」や「しゃもじ」)としても重宝されました。

江戸時代では、浮世絵が隆盛を極めた際にその繊細な線を彫り込むための「版木(はんぎ)」に選ばれもしました。硬くて木目が細かい私の材は、日本の芸術文化も深く関わることになったんです。

草木染め、工芸品

材は、ただ硬くて丈夫なだけではありません。実は、みなさんがイメージするあの「桜色」を、私の枝や皮の中にそっと抱えているんですよ。

花が咲く直前が「一番鮮やかな色」

みなさんは「草木染め」を知っていますか?
私の枝を細かくして煮出すと、布を美しいピンク色に染めることができます。不思議なことに、一番鮮やかな色が取り出せるのは、「花が咲く直前」の時期なんです(つぼみにエネルギーが満ち溢れている!)。平安時代の貴族たちも、こうした自然の色彩を衣に取り入れ、季節を纏(まと)っていたのだとか。

使うほどに深まる「樹皮の輝き」

樹皮は、とても丈夫で独特の光沢があります。 伝統の技、秋田の「樺細工(かばざいく)」などで知られる技法ですが、山桜と同様に工芸品の材料として愛されてきました。

また、樹皮は水に強く、使い込むほどに茶褐色から深い飴色へと輝きを増していきます。その特性から、印籠(いんろう)や茶筒、さらには刀の鞘(さや)の装飾など、武士や町人たちの「持ち物」を「粋」に彩りました。

江戸時代に入ると、庶民の間でも「サクラ色」は憧れの色になりました。
私が提供する染料や樹皮は、厳しい自然の中で生き抜くための「鎧」であると同時に、日本人の装いに華やかさと品格を添える「美の源泉」でもあったのです。

桜餅

さて、お待ちかね、私の「美味しさ」についてお話ししましょう。私が江戸の街で一躍有名になったのは、享保2年(1717年)のことでした。江戸・向島にある「長命寺」というお寺。その門番をしていた山本新六さんが、隅田川の土手に散る私の大量の葉を見て、「これ、捨てるのはもったいないなぁ」と考えたのが始まりです。

彼は葉を塩漬けにして、お餅をくるりと包んで売り出しました。これが「長命寺 桜餅」の誕生です!江戸っ子たちの間で「粋で美味しい!」と爆発的な大ブームになりました。

なぜ「オオシマザクラの葉」だったの?

実は、他のサクラの葉ではこの味は出せないんです。私には、美味しいヒミツが3つもあるんですよ。

  1. 甘い香りの成分「クマリン」:葉を塩漬けにすると、バニラのような甘い香りの成分「クマリン」が生まれます。私は他のサクラより、この香りが圧倒的に強いんです。
  2. 産毛のない葉っぱ:葉には産毛がなく、とても滑らか。だから、お餅と一緒に口にしても、口当たりが最高に良いのです。
  3. 大きな葉っぱ:葉は、花が咲くのと同時に大きく育ちます。お餅を優しく、しっかり包み込むのにぴったりの大きさなんです。

葉の生産日本一は、静岡県の西伊豆

今でも、私の葉の生産日本一は静岡県の西伊豆(松崎町など)です。
5月から収穫が始まり、大きな樽の中で約半年間も塩漬けにされます。じっくり「熟成」されることで、あの独特の香りが引き出され、翌年の春、ようやくみなさんの元へ届くのです。半年間の「熟成」が作る春の味、是非ご賞味ください。

結び

いかがでしたか?
魅力いっぱいのオオシマザクラを探してみてね!

オオシマザクラは、日本固有の野生のサクラ
和名オオシマザクラ(大島桜)
学名 / 英名Cerasus speciosa / Oshima Cherry
分類バラ科サクラ属(日本固有の野生種・原種)
主な自生地伊豆諸島、伊豆半島、房総半島、三浦半島など
成長速度非常に早い
開花時期3月下旬〜4月上旬(ソメイヨシノとほぼ同時期)
花の特徴白く大きな一重咲き。花と同時に緑の葉が出る
実が実る時期5月〜6月頃(黒紫色に熟します)
材の特徴・特性緻密で非常に硬く、摩耗に強い。腐りにくく加工もしやすい
香りの成分クマリン(葉を塩漬けにすると強く香る)
訪れる野鳥メジロ、シジュウカラ、ヒヨドリなど
主な用途桜餅の葉、薪炭、建築材、家具、版木、草木染め

参考文献・参考サイト:

  • 農林水産省:「桜餅」の葉はなぜ食べられるの?(オオシマザクラとクマリン、松崎町の生産について)
  • 森林総合研究所:サクラの野生種について(日本固有種や系統、ソメイヨシノの親としての解説)
  • 伊豆大島観光協会:特別天然記念物「桜株」(自生地の歴史や樹齢について)
  • 松崎町 振興公社:桜葉の生産(塩漬け工程やシェアについて)