今回は「島寿司」について深掘りしようと思う。どうして「島寿司」なのかというと、海を眺めながら、カラシでほおばる島寿司が好きだから!っといっても、この状況で食べたのは、随分と昔……
さて、伊豆諸島の島寿司を口に運ぶとき、鼻に抜けるのはワサビの瑞々しいツーンではなく、カラシの重厚なツーン。そして、艶やかな飴色の切り身は、島とうがらし醤油に浸されている〜(これがまた、キラキラとしてゴクリ!)
でも、どうして醤油が採用されたんだろう?
なぜ、島とうがらし醤油?塩は?ワサビは?
塩:地中に塩を持たない日本という列島
四方を海に囲まれながら、地中に塩を持たない日本という列島。かつての島において、海水を煮詰めて作る塩は、あまりに多くの火(薪)を飲み込む貴重な存在でした。
人々は、このような風土の中で、足の早い魚の保存性を高めるために本土から届く「醤油」を用いるようになったのです。
ワサビ:「冷涼な気候」と「清らかな湧き水」が必要
ワサビを手に入れることは、島の人々にとって至難の業でした。そこには、大きく分けて2つの高い壁が存在していました。
- 生育条件の不一致:本来、ワサビは「冷涼な気候」と「清らかな湧き水」を必要とします。温暖な海洋性気候で、水資源が限られていた伊豆諸島の環境では、自生も栽培も非常に困難だった!
- 流通の壁:江戸時代、ワサビは幕府に献上されるような高級品であり、本土からの輸送手段も限られていた離島までは届かなかった!
この傍らには、いつも「辛み」の工夫がありました。
本来、寿司に添えられるはずのワサビは、この島には自生していません。人々は代わりに、本土との交易によってはいってきた粉からしを練り、を魚に添えたそうです。今も伊豆諸島に残る「島寿司にはカラシ」という習慣は、その名残なんだとか。
やがて、人々はもう一つの工夫を見つけます。それは、庭先で赤く実り、風土に根ざして育つ新鮮な刺激物「島唐辛子(島とうがらし)」!
唐辛子:風土に根ざして育つ島とうがらし
人々は醤油の瓶の中に、その小さな唐辛子をそのまま放り込みました。醤油の中でじっくりと辛みが溶け出し、保存のための液体は、それ自体が鮮烈な刺激を持つ万能の調味料へと姿を変えていったのです。
島唐辛子(別名:キダチトウガラシ)は、もともと熱帯中南米原産です。江戸時代に持ち込まれた後、人間が植えたものだけでなく、以下の理由で「勝手に生える」ようになったのだとか。
- 生育条件の一致、高温多湿が好き:伊豆諸島の温暖で雨が多い気候に適している。
- 多年草:本土の唐辛子は冬に枯れる「一年草」。でも、島は冬も暖かいので、枯れずに木のようになり(木立ち)、何年も実をつけ続ける。また、肥料がなくても、道端や荒地、海岸近くの厳しい環境でもグングン育つ。
- 鳥が種を運ぶ:鳥は唐辛子の辛さを感じないため、赤い実を食べて遠くへ運び、フンと一緒に種を落とす。
また、普通の唐辛子(鷹の爪など)と比べると、島唐辛子には「見た目」と「育ち方」に面白い違いもありました!
普通の唐辛子 と島唐辛子の比較表:
| 項目 | 普通の唐辛子(鷹の爪など) | 島唐辛子(別名:キダチトウガラシ) |
|---|---|---|
| サイズ | 長い(5〜7cm程度) | 小さい(2〜3cm程度) |
| 形 | 細長く、先端が尖っている | 小粒で、少し丸みがある |
| 実の向き | 枝から下向きにぶら下がる | 枝の先に上向き(空を向く) |
| 分類 | 一年草(冬に枯れる) | 多年草(冬を越し「木」になる) |
| 辛さ | ガツンとくる辛さ(一般的) | 鋭く強烈(鷹の爪の約2〜3倍) |
| 香りの特徴 | 香ばしい、スタンダードな香り | フルーティーで独特の芳醇な香り |
| 主な用途 | 薬味、乾燥させて保存、ラー油 | 醤油漬け、島寿司、コーレーグース |
この「香り」があるから、島寿司を引き立てる深みのある味になるんだね!
また、島唐辛子を醤油に漬けるときに「青いうちに漬けるか、赤くなってから漬けるか」で味が変わるそうです〜(二通りも楽しめちゃうの!?)
- 青い実(未熟)の醤油漬け:
フレッシュでキレのある辛みが特徴。伊豆諸島の「べっこう」にはこちらが好まれることも多いのだとか。 - 赤い実(完熟)の醤油漬け:
辛みとともに甘みとコクが増し、醤油がよりまろやかでフルーティーな風味に!
どちらも美味しそう〜(美味しいにきまってますよぉ)
漬ける魚は、白身の地魚
「その時期に島で獲れた、脂ののった白身魚」を漬けるのが島流だそうです。
1. メダイ(目鯛)
島寿司の「王様」といえばメダイ。
- 特徴: 身が柔らかくて脂がのっています。
- 相性: 脂が甘いので、島唐辛子のピリッとした辛みが加わると味が引き締まり、とろけるような美味しさになります。
2. オナガダイ(ハマダイ)
真っ赤な色が綺麗なオナガダイ。
- 特徴: クセがなく、上品な旨味がある。
- 相性: 島醤油に漬けることで、淡白な身にコクが加わる。
3. シマアジ
伊豆諸島の名産として名高いシマアジ。
- 特徴: 独特の歯ごたえと、濃厚な脂の旨味がある。
- 相性: 醤油の塩気と唐辛子の刺激が、シマアジの強い旨味をさらに引き立てる。
4. カンパチ・ヒラマサ
青背の魚の中でも、脂がしっかりのったカンパチ・ヒラマサ。
- 特徴: 身が締まっていて、食べ応えがある。
- 相性: 漬けにすることで、青魚特有の香りが抑えられ、食べやすくなる。
ちょっと変わったところで……
- アオゼ(アオダイ):八丈島などで夏によく獲れる魚。身が透き通るように綺麗で、島醤油との相性も抜群!
- トビウオ:春から夏にかけての定番。脂は少なめですが、漬けにすることでしっとりとした食感に!
島唐辛子醤油とカラシの両方でいただくのもあり?
島寿司のいただき方は島や家庭、お店によって少しずつ異なります。島とうがらし醤油とカラシの両方を使うケースは主に以下の2パターンあるよ。
1. 「島唐辛子醤油」に漬けて、「カラシ」をのせるスタイル
- 作り方:刺身をあらかじめ島唐辛子を漬け込んだ醤油(島醤油)で「づけ」にします。そして、握る際にシャリとネタの間に粉からし(練りからし)を忍ばせます。
- 味わい:口に入れた瞬間、まず醤油に溶け出した島唐辛子のフルーティーな香りとキレのある辛みが広がり、後からカラシのツンとした刺激が追いかけてきます。辛いもの好きにはたまらない贅沢な仕上がりです。
2. 「追い島唐辛子」スタイル
八丈島などで一般的な「カラシ」を使った島寿司を食べる際、小皿に出す醤油を島唐辛子入りの醤油にするスタイルです。
- 楽しみ方:基本は「ネタ+カラシ+シャリ」の構成ですが、つける醤油自体に島唐辛子の風味が移っているため、結果として両方の辛みを同時に味わうことになります。
両方でいただくのもあり!
それぞれの風味がケンカしない?と思うかもしれませんが、この2つは辛さの「種類」が違うため、ケンカはしないんです。
- カラシ:鼻に抜ける「ツン」とした刺激(揮発性の辛み)。
- 島唐辛子:舌に刺さる「ピリリ」とした刺激(カプサイシンの辛み)。
この2つが組み合わさることで、脂ののったメダイやシマアジの甘みがより一層引き立ち、後味が驚くほどスッキリします〜(まぁ、素敵!)
【余聞】酢飯は、少し甘め
温暖な気候の島では、エネルギー補給や保存性を高めるために、酢飯に砂糖を多めに入れる習慣があるとのこと。これが本土の寿司よりも甘く、コクのある風味を生んでいるよ。
また、島寿司に使われる酢は、基本的には本土から取り寄せた一般的な酢(米酢や穀物酢)だそうだ。
結び
いかがでしたか?
毎回違う島寿司にほおばれるなんて!
島寿司(伊豆諸島)の特徴比較表:
| 比較項目 | 八丈島流(標準的な島寿司) | 伊豆大島・利島流(べっこう) |
|---|---|---|
| 主なネタ | メダイ、シマアジ、トビウオ、オナガダイ | メダイ、ブダイ、イサキ、タイ |
| 味付け(漬け) | 醤油ベースの甘辛いタレ(煮切り醤油など) | 島唐辛子を漬け込んだ醤油(ピリ辛) |
| サビ(薬味) | 粉からし(練りからし)が主流 | 青唐辛子(醤油に溶く、または刻む) |
| 見た目 | 漬けダレでネタが琥珀色(べっこう色) | 醤油の色と唐辛子の辛みでツヤのある黄金色 |
| シャリ(酢飯) | やや甘めの設定が多い | 一般的な酢飯、または少し甘め |
| 歴史的背景 | ワサビの代用として「からし」が定着 | 庭先の島唐辛子を活用した「地産地消」 |